Special 写真家・川内倫子インタビュー

「深い母性と大きな愛」

2011年に東京国立近代美術館で開催されたイケムラレイコ展のポスター撮影のために、ドイツにあるアトリエを訪れた写真家の川内倫子。以来、公私ともに交流をつづけてきた川内が語る、アーティスト・イケムラレイコの魅力とは—。

  • photo:Takehiro Goto
  • text:Madoka Hattori

ストイックかつチャーミングな魅力を合わせ持った人

  • イケムラレイコさんとの交流のきっかけは?

    「3年前、東京国立近代美術館で開催されたイケムラさんの展覧会で、ポスターとカタログ用にアトリエとポートレイトの撮影をしてほしいと、学芸員の保坂さんから連絡をいただいたのが最初です。2006年にヴァンジ彫刻庭園美術館で開催された展覧会『うみのこ』も拝見していましたし、副館長の岡野さんにもイケムラさんを紹介したいと言われていたので、ずっと気になる存在でした。ドイツには10日間くらい滞在して、イケムラさんのアトリエや作業風景を撮影させてもらいました。以来、東京にいらっしゃる時は必ずお会いして、食事をご一緒させていただいたりメールをしたり、という交流をつづけています」

  • イケムラさんの作品については、どのような印象を持っていますか?

    「女の子の彫像や絵画に使われるブルーの色味など、作品そのものにずっと惹かれていました。一方的ですが、自分の作品に近しいものを感じていたのだと思います。また彫刻や絵画、ドローイング、文章などアウトプットの媒体が多様ですが、どんな作品でもイケムラレイコというひとりの作家から生まれている統一感がありますよね。簡単につくれない、海の底から大変な思いをしてひきずりだしてきている感じが、作品をみていて伝わる。ひとりの女性の生き様、人生を感じさせてくれる。しかも、いまこの時代に共に生きているアーティストだということも、私にはとても励みになります」

  • 実際にドイツでご本人に会われて、作品とのギャップはありましたか?

    「人としてとてもチャーミングな方だなと思いました。アーティストとしてはストイックで、制作中はものすごい集中力を発揮する。普段のかわいらしい姿とのギャップもまた人間らしくて素敵です。いつも、お酒を飲むと女子トークをするんですが(笑)、そういうバランスも面白い。だから私自身もアーティストとして対峙しながら、リラックスした状態でお話できるのだと思います。尊敬するアーティストとして、またひとりの自立した女性としてお話できる稀有な存在です」

包み込むような宇宙的世界観

  • 「PIOON」展は日本での約2年ぶりの個展になりますが、イケムラさんの作品の変化は感じましたか?

    「そうですね。前回の東京国立近代美術館では回顧展のような構成で、初期の作品などを見ながら、イケムラ作品の歩みを俯瞰してみることができました。今回は過去の作品もありますが、その先にあるイケムラさんの包み込むような世界観が表現されています。特に大きな《うさぎ観音》には、深い母性を感じました。2体ある一方は泣いていますが、一方は微笑んでいる。その両方が必要なのだと、2体の間に立って気がつきました。うさぎはかわいらしくキャッチーなモチーフですが、作品の奥にあるイケムラさんの母性を体感できる。世界は簡単に語れるわけではないし、世の中は辛いこともいっぱいだけど、こんな大きな愛で包んでくれるアーティストがいるということは救いですよね」

  • 今回、滋賀県立陶芸の森での《うさぎ観音》の制作にも同行されたそうですね。

    「最後の仕上げの作業をしている段階を撮影させていただきました。今回は信楽のチームの方々と一緒に制作されているというのがとても大きな意味をもっていたと思います。3メートルを超える大きな作品をつくるには、どうしてもたくさんのスタッフが必要ですよね。チームがあるからこそできた作品。《うさぎ観音》というタイトルだと知らなかったのですが、観音様をつくっているのだなとひと目でわかりました。それくらい、神々しかったんです。ドイツのアトリエでは、イケムラレイコという小宇宙の世界をみせていただいたのですが、今回は広く深い大きな宇宙をみせてもらいました」

  • イケムラさんを撮影する時に気をつけていることはありますか?

    「とにかく制作の邪魔をしない。そしてイケムラさんが集中状態に入った時、自分も同じように集中する。同じレベルにいかないといけないんです。どうやって撮ろうとか考えている暇はないんですよね。常に置いていかれないように必死です」

  • 今回は展覧会の作品集『イケムラレイコ』と同時に『イケムラレイコ・川内倫子』(仮)を制作中だそうですが、どのような内容になるのでしょうか?

    「信楽で撮影した写真、イケムラさんとの往復書簡、イケムラさんの詩に合わせた私の写真などで構成する予定です。連名で本をつくるということは、自分の作品集とは違い、ひとりでは絶対にみれない景色を一緒につくりだすことができる。それがコラボレーションの面白いところですよね。合わない人だと難しい。イケムラさんはよく “私たちは違う時代では巫女さんだったのかなと時々思うんです”とおっしゃいます。ここにあるものではなく、上にある目に見えないものを視覚化している。そこが共通しているところかなと思います」

photo : Rinko Kawauchi

川内 倫子

1972年滋賀県生まれ。
2002年に『うたたね』『花火』で第27回木村伊兵衛賞受賞。2009年にICP(International Center of Photography)主催の第25回インフィニティ賞芸術部門受賞。2012年に東京都写真美術館で個展「照度 あめつち 影を見る」を開催し、第63回芸術選奨文部科学新人賞、第29回写真の町東川賞国内作家賞を受賞。2013年に写真集『あめつち』を世界3カ国で出版。個展、グループ展は国内外で多数。本展では、2人の世界観を交錯させながら写真や絵画、言葉で綴った展覧会関連書籍「イケムラレイコ・川内倫子」(仮)を刊行予定。

www.rinkokawauchi.com

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Special : 7

モデルKIKIとめぐる「イケムラレイコ PIOON」

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movie : Takehiro Goto
hair&make : Rumi Hirose
interview : Madoka Hattori

Special : 1

イケムラレイコによる詩の朗読

ヨーロッパでの活動のなか、イケムラレイコはスペイン語、ドイツ語、英語など複数の言語を習得していきます。言語とは国や文化と切り離しがたいものであると同時に、作家自身の人間性とも深く関連をもつ対象であり、作品とともに詩や俳句など言葉を用いた表現がこれまで試みられてきました。 ここでは、《うさぎ観音》展示会場の壁面に使用されています「うさぎ短歌」の朗読がお聞きいただけます。